「コア能力」で成長する

「何故、お客様はその仕事を、他の会社に発注しないで、あなたの会社に発注してくれるのですか」あるいは「あなたは何故、その商品をB社からでなく、A社から購入するのですか」。皆さんは、日ごろのビジネス活動の中で、何気なく特定の相手に、発注したり購入したりしていると思います。また、商品やサービスが複数ある場合には、複数の相手に分けて発注したり購入したりしているはずです。それは何故でしょうか。

それぞれの会社には、「コア能力」が事業の根幹にあり、これが「コア・コンピタンス」と呼ばれています。コア・コンピタンスとは、「自社にの核になる能力」で「顧客に対して、自社ならではの価値を提供する能力」と言われています。

冒頭で挙げた問いかけの「何故」の部分に、社長が意識するとしないにかかわらず、「コア・コンピタンス」の存在が隠されているのです。社長が発注するA社には、必要なコア・コンピタンスがあり、B社には、それがないのです。お客様が他社に発注せずに、自社に発注してくれるのは、自社に「他社にはない価値を提供してくれる能力」があると認めてくれているからなのです。

このように考えると、社長としては、これまで無意識に経営していた自社の「コア能力」を意識した経営に転換する必要性が見えてきます。つまり、自社のコア能力を意識して、常にブラッシュアップし、お客様の価値を拡大していくために自社のコア能力も、広げていかなければならないことに気づくはずです。

かつてシャープは、自社の「液晶技術」を活用して、小型の卓上計算機、液晶テレビ、携帯電話など他分野へ進出を果たし、事業を成長させました。また、キヤノンは、「光学技術」を活用して、マイクロエレクトロニクス技術、カートリッジシステムなど連鎖的に技術を連鎖させてあらたな商品を開発して成長しています。これらの技術は、全て「コア・コンピタンス」と呼ばれるこれらの企業の「コア能力」です。

神奈川県にある水処理会社A社は、「塗装工場での排水処理技術」をコア能力として発展してきました。しかし、ここ数年、環境重視社会の到来とともに塗装業務を海外で行う企業が増加し、国内の塗装工場が大幅に減少し、自社の成長にも陰りが見えるようになり、相談を受けました。

すでに前項で店舗コンセプトについて述べましたが、同様に事業にはすべてコンセプトが必要です。この会社の場合には、「事業コンセプトプト」の再構築が喫緊の課題でした。これまでの「塗装工場での排水処理」という事業くくりですと、「誰に」が「塗装工場」であり、この業務が海外に移管されて事業の対象となる「誰に」が減少し、自社の成長にも陰りが見えたわけです。

当社を新たな成長軌道に乗せるためには、「誰に」を見直す必要があるのです。事業を見直すとき、「水」を主体にするのか、「環境」を主体にするのかでも、方向性は大きく変わります。「環境」を主体にすると「水」だけでなく、「空気」あるいは「大気」、さらには「光」「自然」など、どんどん大きな事業のくくりになっていきます。ここでは、事業を「排水処理」から「水処理」としてこれまでより少し、大きくとらえることで、あらたな事業コンセプトを構築することにしました。

事業を拡大して「水処理」として考えるとここでもいろいろな「水」があります。上水道もあり、下水道もあり、飲料水やミネラルウォーター、産業雑排水もあり、畜産汚水などもあります。ここで大切なことは、自社のコア能力を如何にうまく派生させて使えるかです。当社の場合は、周囲の環境変化からIT関連の産業が伸びているため、IT関連に必要な「純水装置」分野へ進出しました。従って、「IT関連の事業者に」「純粋供給装置を」「自社の水処理技術を活用して提供する」という新たな事業コンセプトが出来上がり、これまでの塗装排水処理関連の売り上げ減少分を完全にカバーできるようになりました。このように、「コア能力」を意識して事業コンセプトを再構築することが会社の成長には必要なのです。