「会計の理解」で伸びる会社・つぶれる会社

あなたの会社は税理士任せで税金計算のために決算処理をしていませんか。

東京都の製造業A社は、毎年利益を計上して優良企業といわれている中小企業で、今期の損益計算書は以下の通りです。(単位:1,000円)

売上高        890,123

売上原価       521、208

売上総利益      368.915

販売費及一般管理費  263,415

営業利益       105,500

営業外収支       37,464

経常利益        68,036

特別収支         7,002

税引前当期利益     61,034

法人税等        32,053

当期利益        28,981

今期も6,000万円を超える税引前利益を計上しているのですが、税金を支払う資金のうち約2,000万円が足りません。早速、取引銀行に決算書を見せて話をしたところ、2,000万円の借入は問題なく、最終的には銀行の「決算後で新たな資金も必要となるかもしれないので、業績も良いし余分目に借り入れておいてはいかがですか」というアドバイスも聞き、銀行とのお付き合いということで4,000万円を借り入れることにしました。

結局、不要な資金2,000万円の借入金が増加したのです。これで税金の支払い問題は解決しました。社長に話を聴くと、毎年このような形で決算後の処理をしているとのことでした。利益が出ていて何故、税金を支払うお金が不足するのでしょうか。大きな疑問なのですが、経営者は、この疑問に答えることなく、何の躊躇もなく銀行から新たな借り入れをしてその場を凌いでしまいます。

日本の企業の経営は欧米のようなキャッシュベースの経営ではなく、損益計算書中心の経営になっています。特に日本の中小企業においては、税理士任せで、極端な言い方をすれば税金計算のための会計に終始しているのが現状です。ここに中小企業の財務体質がぜい弱な原因があります。経営者が日ごろからキャッシュベースの経営をしていれば、財務体質が強化されるはずです。

一方、銀行は黒字の企業には、最低でもその企業が返済した範囲内であれば、無条件で資金を提供するのです。ここに日本の企業が借入金体質から抜け出せない原因があるのです。つまり、その原因とは、経営者が「利益が出ているのに何故、お金が足りないのか」という疑問を感じない甘い経営姿勢と、それを助長する銀行側の「資金貸し出し姿勢」にあるのです。

財務諸表を理解している経営者であれば、貸借対照表を見て今、当社の資産と負債のバランスがどのような状態にあるか、特に資金を運用している状態を示している「資産の部」の内容について精査するはずです。資産の項目を精査することによって、どの部分に資金が滞っていて税金支払いの資金が不足しているのかを把握することができるのです。資金が滞っている資産が明らかになれば、その資産の有効活用や早期回収の手を打つことができ、一時的には借入金で凌いだにしても、早期に返済ができ、財務状況が好転していくのです。

この時、資産項目を精査するポイントは、短期的な流動資産では、売上債権の回収時期の把握、商品や材料、仕掛品など棚卸資産の陳腐化の有無や長期滞留の有無、立替金や貸付金の回収、長期的な固定資産では、設備等固定資産の有効活用、投資資金の回収など企業によっては異なりますが、資産の一つ一つについて、その健全性を確認することです。

 

このように社長自身が損益計算書だけに頼った経営をするのではなく、自社の財政状態を明確に示している貸借対照表を精査することで資金不足の原因が理解でき早期に手を打つことが可能となるのです。