現場情報で成長する

「私は毎月、パートさんたちの誕生祝の食事会をやっています。現場の生の声が聞けてすごくためになります」。私が地元では大手の自動車部品販売会社の管理者研修を依頼されたときに話の中で出てきたこの会社の社長の言葉です。確かに社長が仰る通り、このような会を経営のトップである社長自らが催せば対象となるパートさんたちは、喜んで参加し、心をゆるし社長に日々社内で起こる、いろいろなことを話してくれるでしょう。そして、社長自身もそれらの事象に対処して改善・改革していくことも可能でしょう。

でも、ちょっと待ってください。社長がこのような会を催すことは結構ですが、何か変ですよね。社長が言っているこの言葉を裏返して考えると、「社長である私に組織の末端での現場情報が入ってこないので、私が直接、聞く機会を創っているのですよ」となりませんか。つまり、この会社では、経営に必要な組織の末端での情報が経営トップにまで上がってこない組織になっているのです。

この組織の異常に社長も気づくことなく日々、仕事の忙しさと戦っているのが現状なのでしょう。

今回、この社長は単に「当社の管理職研修をお願いします」と私に依頼してきたのですが、私とすれば、この社長との面談で社長自身が気づいていない今回の管理職研修の「真のニーズ」を理解することが出来ました。

日本の高度成長であればいざ知らず、環境変化が物凄く激しい現代においては、経営に最も必要なものは「組織の末端情報」なのです。組織が活動している限り組織内のいろいろなところで問題が起きているはずで、それらの問題の中にその組織が発展するための「改善改革の芽」が存在しているのです。それら貴重な情報こそが現代の経営トップに必須な情報なのです。

この社長からは、「管理職が部下をしっかり管理できるようにしてほしい」「リーダーとしての自覚を持たせてほしい」「目標を達成できるチームにしてほしい」などと研修に係るいろいろな要望を受けましたが、いずれも「真の研修ニーズ」に比べたら枝葉末節の依頼事項でした。つまり、「真の研修ニーズ」である「末端情報がトップに伝わる風通しの良い組織づくり」を追求することで、社長の言うすべての問題は解決できるのです。

「管理職が部下をしっかり管理できるようにしてほしい」という要望でまず考えなければいけないことは「部下の管理」の意味です。「管理」という言葉はどうしても「押さえつけつける」「枠にはめ込む」のようにとらえられがちですが、管理の本来の意味は、「部下がモチベーションを発揮してイキイキと働く状態を創り出すこと」ですから当然のこととして部下の職場情報が自然に管理者に届くような双方向のコミュニケーションが働いている組織ということになります。

「リーダーとしての自覚を持たせてほしい」という要望では、まず、リーダーシップの意味を理解する必要があります。リーダーシップとは「リーダーとしての管理者自身が、相手である部下、上司、関係者を自分の意図する目標へ近づけていく力」と定義されますので、リーダーである管理者は、自分の意図する目標を明確に持ち、相手である部下、上司、関係者との上手なコミュニケーションをとり、相手が動きやすい環境をつくりだすことが大切なのです。リーダーシップというと、どうしても「俺について来い」というタイプを想像しがちですが、現在のリーダーシップは、それでは通用しないのです。やはりここでも相手が動きやすい「情報」が必要なのです。

「目標を達成できるチームにしてほしい」については、多くのケースにおいて「目標の設定」に問題があります。組織の目標とは「共通の目標」であると同時に「自分の目標」でないと達成は難しくなります。多くのケースにおいて、目標は上から与えられたものになっており、自分達にとっての「共通目標」になっていません。トップが与えた目標であっても、チーム内で検討し「自分たちの目標」という意識づけをするための「上下間の情報の交換」が必須です。