自己資本比率40%

金融機関が融資先の借入金が多いか少ないかを判断する目安としてその企業の売上高に対する借入金を比率で見ます。つまり、総借入金を売上高で割り、その値が20%~30%であれば理想の状態であり、50%を超えると借入金が多い企業だと判断します。

もう一つの目安として、総借入金を(税引後利益+減価償却費)で割り、この企業は主力に事業活動で借入金を返済するのに何年かかるかをみる債務償還年数という見方があります。この場合、金融機関は10年以内を一つの目安とします。

さらに金融機関はさておき、社長として常に健全性を見る指標としては、やはり、自己資本比率が最重要な指標となります。自己資本比率とは、どの程度、自分の手持ち資金で経営をしているかの指標で、自己資本比率が高いほど、借入金に頼る経営から脱却して無借金経営に近づいていくわけです。優良企業の自己資本比率は50%を超えますが、とりあえずの目標としては、40%クリアを狙うことです。

埼玉県にある運送業のA社は、社長が急逝され後継者が突然のこととして、事業のすべてを承継することになりました。事業承継時から後継者に相談を受け健全経営に載せるため、事業支援を行うことになりました。その時の貸借対照表を精査しましたが、中小企業の多くに見られるとおり、自己資本比率は一桁で9%程度でした。一方、売上高対総借入額の比率は、60%強ありました。幸いにして後継者は営業面に強く、国内での貨物扱いが減少する環境の中でも仕事の量に関しては問題なく確保できていましたので、財務面の充実を図ることにしました。狙いは現状9%台の自己資本比率を40%に大幅改善図ることです。そのためにまず、これ以上借入をしない、ことを社長に納得してもらい、全体的な経営革新を開始しました。

まず、台帳に基づき保有資産を精査しました。その時の視点は、「すぐに資金化できる不要資産はあるか」「新たな仕事に活用できる遊休資産はあるか」の視点です。資産を精査した結果、一つだけ、先代が将来の事業拡張のために確保した土地が更地で残っているだけで、他の資産はすべて活用されており健全でした。この遊休の土地は、景気が回復してきた昨年末、売却できました。

この企業の場合、資産については、それほどの問題がなかったので、資産の圧縮ではなく収益を上げることで利益剰余金を増やし、40%をクリアする方針を立てました。運送業という業種はサービス業ですので、従業員たる人が命です。しかし、中小企業の特徴で人が育っていません。しかし、一人一人を見るとしっかりとまじめに仕事をこなしており、怠け者は一人もいない状況でした。結局、この企業の強化ポイントは、懸命に働く一人一人をまとめて相乗効果を発揮させる組織力の強化だという結論に至り、この企業の組織としての人材を育成することになりました。

まずは、組織の要となる核になる人材を育成すること、つまり5人ほどの管理職養成に注力することにしました。そのために、毎月、10名ほどの管理職候補を集めて人材育成のための管理職研修を実施しました。結果として、4名の管理職が誕生し、組織の核となって力を発揮するようになりました。中小の運送業の多くは経営状態が悪化しているにもかかわらず、この会社は、年々、右肩上がりに成長を続け、ついに、支援後4年で、自己資本比率40%を超えることが出来ました。無借金経営まであと一息です。

この企業で借入金比率を減らし、自己資本比率を向上させるためにとった主な手法は以下の通り借入金体質脱却のための、キャッシュの増加策です。

・人材育成で、収益力を上げて手持ちのキャッシュを増やす

・賃借倉庫の家賃引き下げ交渉の強化により手元キャッシュを増やす

・遊休資産の売却でキャッシュを創出