「金融機関の活用」で伸びる会社

日頃から多くの課題を抱えているのが中小企業ですが、特に販路開拓は中小企業の成長にとって大きな課題です。特に中小製造業はかつて日本の大企業躍進の屋台骨を支えてきただけあって、その技術力の高さには定評があります。しかし、長い間続いた円高経済により大企業がその製造拠点を海外に移転し、多くの中小企業は仕事を失い、大企業依存経営からの脱却と自社製品の開発と販売が大きな課題となりました。確かに優秀な技術を持つ中小企業だけに数多くの製品を開発することはできました。しかし、これまでの経営が大企業依存であったために自社自身の販売ルートがありません。

東京にある機械部品製造業A社も、かつては技術力を活かして大企業との下請取引を行って成長してきました。しかし、今は周囲の環境変化により、親企業は海外に移転し仕事の大部分を失い、いつ倒産してもおかしくない状態にまで業績は落ち込みましたが、やむなく従業員を削減するなどして、急場をしのぎ次の自社の業績向上を目指して新製品を開発しました。しかし、これまでは営業活動をしなくても大手企業が自社の部品を大量に買ってくれていましたので問題なかったのですが、今はそのような状況ではありません。製品を開発したものの、試作品をテストする相手も販売する相手もいないのです。また、どのように販売先を探したらよいかもわかりません。国の販路開拓事業を活用しようと何度か中小機構に問い合わせましたが、自社の方向性に合う取引先が見つかりません。

A社の社長は思い悩み思案した挙句、このところ、借入金返済を迫るようになった自社の取引銀行が多くの店舗網を持っていることに気づきました。「返済を当社に迫る銀行にも貸した責任はある。自分も借りた責任を果たすが、そのためには銀行にも貸した責任を果たしてもらおう」。そう考えるとA社の社長は有機百倍。「この銀行が全国にもつ店舗網を活用しよう」と考えました。

そこでこの社長は、自社の製品を販売するのに適した企業はどこか、を自分自身で考えて列挙し、三社に絞り込み、今後の事業計画を大きなくくりで明確にした家で、返済を迫る銀行にその三社を紹介するようを強く依頼しました。

さすがに傾きかけた企業を自行の客先に紹介することを最初は渋っていた銀行でしたが、この社長の「貸した側にも責任がある」という言葉の重みと真剣な依頼にA社を自社の取引先に紹介することを約束しました。

その後、紹介を受けた三社を金融機関の担当に同行して訪問し、自社自身と新製品の紹介を行う機会を得ました。相手先の要望に応じて、商品化するために何度か試作品を作成し直し、三社のうちの一社と取引を開始することが出来ました。今はこの会社との取引額がかつての大企業との取引額に匹敵するレベルまでに回復し、滞っていた金融機関への返済も順調に推移し、順調な経営へと転換出来ています。

このように金融機関は多店舗展開しています。多店舗展開しているということは、全国の多くの企業と取引がある、ということです。従って、自社が取引金融機関の信頼を獲得することが出来れば、この事例のように金融機関は販路開拓支援に大きな力を貸してくれるのです。

中小企業とは、様々な多くの課題を抱えた組織です。その課題が「販路開拓」であったり、「仕入先開拓」であったり、「研究開発」であったり、と様々です。金融機関とは資金を借り入れするための関係だけではありません。この事例の社長のように、頭を一ひねりして、「自社の課題解決に金融機関を活用する」ことを考えてみてはいかがでしょうか。