競合情報で伸びる

事業を展開する中で、顧客を明確にしていくと、そこに当然のこととしてこれまではあまり意識していなかった競合の存在がクローズアップされてきます。競合の存在を意識すると、競合がどのような戦略をとっているか、どのような顧客を狙っているか、どのような商品で市場シェアを伸ばしているか、どのような宣伝活動をしているか、など競合の状況が見え、事業活動に係る情報が明確になってきます。これらの情報を活用して競合との差別化を図り、自社の市場における地位を築いていくのです。

ある老舗の食料品製造業の社長が相談に見えました。「近隣への観光客が減少したせいか、最近の売上が減少しているので何とか改善したい」というのが相談の主旨でした。この地域は周辺の海で獲れる魚を原料とした蒲鉾のような海産物加工品が特産となっている地域です。当然のこととして、競合となる同業者も多く、売り上げ落ち込みの原因は単に「観光客の減少」ではなく、台頭してきた競合との競り負けが原因であることは明白です。事実、近年店舗数も増やし、シェアを拡大している同業者が存在しています。要は、競合を意識していない旧態然として経営を続けたために、競合に競り負け、結果として売上高の減少を招いているのです。

この企業のケースでは、取り急ぎ、相談企業を取り巻く競争環境を分析してみることにしました。このようなとき、5つのポイントで環境を見ると明確になります。まず、業界の中の競争環境はどうだろうか、この業界に新たに参入してきている業者あるいは参入しそうな業者はあるか、原材料の調達先となる供給元と自社との力関係はどうだろうか、この地場の食料品業界をすっかり変えてしまうような影響はないだろうか、そして今回の売上減少の原因である顧客はなぜ、自社の商品を喜んで買ってくれないのだろうか。このように5つのポイントで環境を見ると自社を取り巻くいろいろな関係が見えてきます。

この企業の場合、まず競合先が明確になり、その競合先と顧客、自社と顧客の関係が明確になってきました。つまり、これまで自社の販売先であった顧客が競合先であるS社に流れていっていることが明確になりました。この企業の社長が売上減少の理由に挙げている「観光客の減少」が真に原因ではないことが明白になったのです。

そこで売上減少の真因である競合の活動状況を探ることにしました。そのために、以下の要素で自社と競合を比較することにしました。

・開発、調達面       ・生産面    ・物流面

・マーケティング活動面   ・販売面

この結果、物流面、販売面では際立ったギャップは見られなかったが、以下のような事実が判明しました、

(1)開発、生産面

自社:伝統あるノウハウで高級品の開発力が高い

競合:普及品の開発力が高い

(2)生産面

自社:設備の性能が良く鮮度の高い製品の製造ができるが設備の稼働率が低い

競合:量産を狙った生産設備が中心で、鮮度はあまり重視しない一般品を生産している

(3)マーケティング活動面

自社:マーケティング活動が全くなされていない

競合:季節ごと、商品ごと、地域ごとのマーケティング戦略が確立されている

上記の検討の結果、自社の強みは高級品開発力であり、弱みはマーケティング能力、また競合の強みはマーケティング力に裏付けされた普及品製造能力であり、弱みは普及品に頼った経営であることが明確になりました。その結果、自社としては、「マーケティング力をつけて高級品部門に集中特化して競合よりもワンランク上の顧客を狙う」ことになりました。このように競合を明確に知ることで自社の方向性を見出すことが出来るのです。