三つの視点で事業を成長させる

後継者が事業を引き継ぐとき、企業をさらに成長させるために、以下のように三つのポイントを意識した経営を行うことが重要です。

(1)コア・コンピタンスの明確化

自社の核になる能力(コア・コンピタンス)が何かをまず、把握することです。企業によってそれが、技術であったり、ノウハウであったり、サービスであったり、人材であったり、と多種多様ですが、後継者としては、自社のコア・コンピタンスを明確に押さえた上で、あらたな商品づくり、サービスづくり、新分野進出、ビジネスモデルの構築、事業コンセプトの見直しなどを行うべきです。コア・コンピタンスを抑えずに走り出すことは、己の体力を知らずに、冬山登山するようなものです。 

(2)ビジョンの明確化と組織内共有

組織成立の要件でも見てきましたように、組織の力を結集するためには、後継者としてのビジョンを明確にして組織内での浸透・共有を図り、企業としての進むべき方向を一致させるベクトル合わせが大切です。メンバー全員の進むべき方向と到達点が明確であれば、組織内に問題も生じないし、逆に大きな組織力を生み出し、企業は発展していきます。後継者が事業を引き継いだが、とんでもない方向に事業を展開し、社内がばらばらになり倒産してしまう例は幾多となくあります。後継者のビジョンの明確化、つまり後継者として「将来の自社をどうしたい」の明確化は大切な課題です。

(3)キャッシュフロー経営

日本の経営は、どちらかというと「売上」とその結果としての「利益」の増減に一喜一憂する経営、つまり損益計算書中心の経営でした。つまり、メインバンクという強い見方があり、売上を拡大し、利益さえ出していれば、いざというときには銀行が資金を貸してくれました。しかし、今やその銀行自身も経営体質が問われる時代になり、メインバンク自体が頼れる存在ではなくなっています。「自分の身は自分で守る」時代です。つまり、頼れる先は「銀行」から「キャッシュ」に変わっているのです。後継者は、貸借対照表を中心にすえた事業を展開し、キャッシュを自前で生み出し、自前の資金で必要な投資を行い、借入金体質からの脱却を図ることが大切です。キャッシュフロー経営は事業後継者にとっての大切なキーワードです。